第33回日本航空医療学会総会・学術集会
会 長 中川 儀英
東海大学医学部救命救急医学
ドクターヘリ25周年に考えるこれからの課題
日本のドクターヘリは2021年から開始され、今年でちょうど25年、四半世紀を経過したことになります。ドクターヘリ累積出動数は2024年度までに約40万件になりますが、ドクターヘリの死亡事故はいまだゼロです。これもこれまでドクターヘリの立ち上げから関わってきた、小濱啓次先生はじめ、多くの関係各位の努力と熱意による結果だと思います。私自身は1999年の厚生省の試行的事業、さらにそれに先立ち交通科学協議会の1991年の実用化研究から搭乗していますので、ドクターヘリに関わらせていただいたのはそれ以上の長きになるでしょうか。いずれにしましてもドクターヘリは救急医療のツールとして社会的にもしっかりと認知されるようになったといえましょう。
しかし2001年から国の事業として始まった当初は、医学的なニーズや効果にも関わらず、なかなか全国に普及しませんでした。思い起こせば、第12回(2005年)の本学術集会を現在の理事長である猪口貞樹会長で開催したときの事務局を務めさせていただいたときのこと。当時のHEM-Net理事長の國松孝次先生に特別講演をお願いしました。タイトルは『ヘリコプター救急の進展にむけて』。なかなか普及が進まなかった状況について当時の理事長の小濱先生が質問をされたのに対して、國松先生は、『今にきっとヘリや機長が足りない時代が来る』と明言されたことが印象的でした。そして2007年に所謂『ドクターヘリ特別措置法』が成立以降、普及は一気に進みました。現在は全国57機のヘリが運航していますが、これ以上基地病院が増える、運航時間が延長するとなると、もはや機体や、機長、整備などが立ち行かなくなることは必定です。そう考えると國松先生のご発言はまさに正鵠を射るものだったと思います。
普及と相まって、浮上してきた次の課題が『安全運航』でした。飛行中のヘリのドアが開く、あるいはシェードが落下するなどのインシデントがあり、第20回(2013年)田勢長一郎先生会長の学術集会のパネルディスカッション『ドクターヘリの安全管理』で私は『基地病院全体でドクターヘリの安全管理を共有する体制づくりの必要性』(日本航空医療学会雑誌2014年15巻P.14)について提言しました。現在のインシデントアクシデントのレジストリーの契機となるものでした。
2016年の神奈川県ドクターヘリの落着事故は安全運航を実現するうえで重要な事件でした。事故原因の究明と対策立案とともに、安全運航の実現は、運航会社のみに任せず、医療機関あるいは消防機関も参加した体制づくりが望ましいと考えられました。
そして事業開始から四半世紀を迎えた現在、最大の課題は、やはり『安全運航』であると考えます。
2025年民間ヘリが患者搬送中に海上で事故を起こし、尊い人命が失われました。痛恨の極みであります。哀悼の意を表すとともに、今後、航空医療界全体で、このような事故を二度と起こさないようにしなくてはなりません。
今回の学術集会では、25年を振り返るとともに、この安全運航に関して、柳川洋一会長の第32回学術集会での安全運航のシンポジウムを引き継ぎ、1年後に安全運航体制が着実に進歩したのかを問いたいと考えております。学術集会のメインテーマは『安全第一』。ドクターヘリ救急を次の世代にバトンタッチするうえでも、より確実な安全運航実現のための具体的かつ実効性のある議論を期待したいと思います。
2026年3月吉日